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アイカツ、「+1」、さくやちゃんの歌について(アイカツフレンズ!)

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(アイカツフレンズ!ミュージックビデオ『導かれて』をお届け♪)

 

 さくやちゃんの歌を最初に聞いたとき抱いた印象は今でも鮮明に覚えています。正直歌い手としては歌の力がかなり弱い、けれども作編曲の妙や表現力によってそれを補って余りある魅力がさくやちゃんからは引き出されていて、ポピュラーミュージックシーンの中におけるキャラクターソングという非常に狭い世界の中に大きな可能性を感じた瞬間でした。

 歌の力が弱いとは具体的にどういうことなのか。それを説明する為にはどうしても「発声」の良し悪しについて触れなければなりません。発声の良し悪しの基準は、熟達した聞き手の間では人によってのばら付きが少ないわりに、それを言語化する方法はあまりに未発達です。……が、筆者の今まで培ってきたノウハウを駆使して、少しでもここでそれを言語化できるように頑張ってみようと思います。

 さくやちゃんの発声には独特の硬さがありません。なんというか、「個性」の悪目立ちが少なく、まるで人が何の気負いもせずにささやくときのような自然さを伴った発声です。

 しかし、それが発声の力に直結しているかと言えば事はそう単純ではありません。少なくともさくやちゃんの歌については、ソフト的な繊細な歌を操る技術についてはかなりの高水準で合格点をあげられる他方で、ハード的な単純な発声の力についてはやや疑問符が付きます。好ましい言い方をすれば物理で殴ることをあまり重視していないとも言えますが、平たく言えば地に足がついていない、若干ふわふわとした歌唱です。

 そして発声がふわふわとしていると様々な副作用が発生します。代表的なものとしては使える声域が狭くなったり、また歌唱に表情を出す方法もなくなりこそしないものの限定されたりと、正直歌を形にする上ではあまり好ましくない効果が多いので、歌を生業とする人間からはこのような発声は好まれないことが多いです。

 しかし個人的にはさくやちゃんの歌からはそうしたデメリットよりも、むしろそうしたふわふわとした発声を自分の表現に落とし込むことに成功しているというメリットの方を強く感じます。

 

 実はかぐやちゃんにもほぼほぼ似たことが言えるのですが、さくやちゃんの歌う楽曲は全て使わされる声域が非常に狭く、音程的、リズム的にも無理がなく平易な歌い手フレンドリーな曲ばかりです。その上で、好ましい言い方をすれば、狭い音域を如何に広く使えるか、単調なメロディーラインに如何に自分の表現を付加することが出来るかを問われる楽曲がとても多いのが特徴です。

 そして、この「自分の表現」という言葉がまたややこしいのです。現代的なミキシングではかすかな音程のブレやリズムのブレは簡単に修正できます。要するに、本来であれば楽曲の基礎部分を構成するはずであるそれらの要素よりも、歌の聞き心地を左右することになる重大な要素が現代的なポピュラーミュージックの世界の中には存在します。そうしたものをまとめて歌の世界では「表現」と呼んでいるわけですね。

 さくやちゃんの場合、特に聞くべきところはしゃくりと地声と裏声のグラデーションでしょうか。低い音程から高い音程へをジャンプするときに作られる独特のためが彼女の表現の生命線です。また、常にミックス気味の発声から構成される彼女の歌声は、表現の一環として、完全に裏へと抜けなくても歌える音域を裏声で処理することが多々あります。これがまた美しい。生でこのクオリティを出せるとするならば、少なくともさくやちゃんはソフトパワーにおいては非常に秀でた歌い手だと言えると思います。

 しかしながらご理解いただきたいのは、こうした彼女の歌唱は割とピーキーで、リズム的、音程的に複雑な楽曲は様にならない可能性が高いということです。非常におしゃれな楽曲が多いので見過ごされがちですが、今回歌われた導かれて、絆~シンクロハーモニー~、Have a dreamのいずれの曲も非常に歌唱的に容易であり、その容易な楽曲の上に如何に表現を乗せていくかが勝負になる楽曲です。こうした楽曲を安定して供給することは決して簡単なことではなく、一歩間違えば簡単に破綻してしまう可能性を秘めたさくやちゃんの歌を見事に楽曲足らしめているのは作編曲の妙であるということは、訓練された聞き手ならば意識して然るべしポイントだと思います。というわけで、オンパレードでもこうした素晴らしいバランス感覚の楽曲が安定供給されることを筆者は願っています。今回はこんなところで。

 

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