この人は数年前JPOPの世界からアニメソングにやってきた。正確に言えば歌手から作詞家として活動を始めた後名義を変えてアニメソングの世界で歌うことを選んだという話のようで、調べてぱっと分かることとしては昔使っていた名義で最後に出たCDは2004年のアルバムだし、TRUE名義で活動を始めたのは一昨年なのでその間に9年以上のブランクが有る。こういう形で新たにデビューしたのはとても思い切ったことだと思う。
歌の内容としては非常に堅い歌を歌う歌手だ。全体を見れば林原めぐみ全盛期みたいな勢いのある歌が綺麗な技術で曲に収まれていて、ぱっと見で批判出来る要素が思いつかないとても完成度の高い曲が多い。ボーカルの視点からみて無難な曲が多いというような話ではなく、むしろ歌手の魅力を上から下まで使うようなシンプルで難しい曲が揃っている。
【TRUE】TVアニメ『響け!ユーフォニアム』OP主題歌「DREAM SOLISTER」MV Short Ver.
この人の曲では京アニの力や時期的な問題でDREAM SOLISTERになんとなく聞き覚えがある人が多いと思う。曲調としては少し他と違うが、全体で地声を使って力のある歌い方がしてあり、フレーズには殆ど表拍から入って強拍の位置もずっと変わらないみたいな、まあAメロの一瞬二拍子っぽくなるあたりのオケの感じから言っても単純にマーチやブラバンっぽさのイメージを導きやすい曲だと思うし、多分タイアップを意識した出来なんだと思う。それ故に地味さを感じる人もいるかもしれないし、そういう人はちょっと下にスクロールしたところにある歌も合わせて聞いて欲しい。
技術的な観点から一番指摘しやすいのは地声がメインで使われていることだ。最近よくこのことに言及しているし、読んでいる人によっては大いに混乱していると思うが、ミックスというのは一部の歌手が使える魔法の声みたいな言われ方をすることもあるし実際にはそんな実態はない。むしろそれが自分の地声だと思い込んでいる人もいるぐらい身近な存在だ。手頃な例を挙げるなら、いくら歌っても喉が傷まないみたいな人は日常的にミックスボイスの領域に声を逃している可能性がある。裏声に近い喉の使い方をするので負担がとても少ないのだ。
別にそんな話は歌を聞く上でどうでもいいんだけど、言葉が下手に広まった副作用で、その常識に対応するために特定の歌手の声がミックスだと覚えている人も多いので、平井堅みたいなよくミックスと言われる歌手以外に対してこの語を使うと事実か否かに関係なくイメージレベルでそうとか違うとかの批判が飛んで来る(ことが予想される)。だから普通は仮に違いが分かったとしても迂闊に言及できない部分があるし、実態としてはそこにつけこんで、僕のような論者が自分はわかっているというアピールのために世間のイメージと寸分違わず同じ事を代弁して使うことが多いと思う(音楽レビューサイトの管理人がもし常識と違うことについて「◯◯のミックスボイスが素敵」なんて迂闊に言えば、思想的な原因で信用を失うだろうしもし正しい情報だったとしても最悪常識知らずとしてコメント欄が炎上すると思う)。
だから何だという話だし、そもそも文化や時代の推移とともに意味がスライドして来て現に非常に広い意味で使われている言葉なので実態が定まらないのは当たり前だが、少なくとも多くの人が思っている以上に今広く使われている意味でのミックスの声で歌う歌手はありふれている。これまでここで取り上げてきた歌手でも聞いている限りでは地声と裏声だけという歌い方をしていると言い切れる人の方が少ないし、そういう歌手の声を表現したい時、無用なトラブルを避けるために一般にすべてを一緒くたにした「地声」という表現がよく用いられていて、それがまた混乱を呼んでいる。この歌手はそういう意味ではなく、もっとミックスボイスと区別された明確な意味に於ける地声を使うし、地声を使う歌手にはそれだけで、物理法則に挑んでいくような楽しさがある。
何でそこで少しカラオケ史観的な話をしたかというと、ミックスを使わない歌は使えないからそうなっているのではなくむしろ使わないという場合が多いのだという話だ。はっきり言って地声を上から下まで使って歌うのはとても難しいし、少なくとも今のJPOP的な世界の女性シンガーにとってはハードルが高い。そしてそれが個人的に好きか嫌いかはともかく、そういう歌を聞く機会があるのは個人的には聞き手として素晴らしいことだと思う。
【TRUE】TVアニメ『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』OP主題歌「Dear answer」Short Ver.
TRUE「UNISONIA」Music Clip short ver .
上ではDREAM SOLISTERを取り上げたけど、TRUEの曲はどちらかと言うと非常にメロディアスなロックが多いし、特にシングルのタイトルは他にはそういうものばかりなので主にそのキャラクターで売っているように見える。インスト的に凝ったことが好きな人にとってはわかりやすい曲に聞こえる面もあるのかもしれないが、その観点から言っても豪快にボーカルに弦やピアノがかぶせてあったりと派手に仕上げてあって、明らかに歌が正しく歌えないと曲にならないようなパッケージングになっている点には見るべきところがあると思う。(まあその道の人からすれば、ひょっとしたら歌い手のことしか考えていない本質的ではない言及なのかもしれないが…)一言でまとめるなら、密度のある歌が歌えることには余程もって生まれたものが突き抜けているか、そうでなければ技術的な根拠があるという話だと思って欲しいし、ではそもそも何が密度がある歌なのかという根本的な部分はいろんな人の力を借りつつ皆さん自身の手で探してみて欲しいと勝手に思う。
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先にも同じようなことを言ったがこの人の曲はメロディーを聞くとGive a reason的な古いアニソンが原点になっていると思う(また変なことを言っているよと思われたかもしれないけど、試しにニコニコあたりでGive a reasonを聞いてから上のUNISONIAを聞いてみると軽いアハ体験みたいになると思う)。もっとチープな言い方をするなら低い声が綺麗とかそういうレベルの話に行き着くと思うんだが(そしてそれも厳密には低い声を聞いてそう言っているわけではなくて、単に地声で高い音域の見せ場まで歌うので「地声という低音っぽい
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