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歌手の話 やなぎなぎ(トコハナ、春擬きなど)

 この人はひと目で本人だと分かるような歌い方をする。とは言っても同時代の同じ分野に似たキャラクターの歌手がいないという話で、そんなに珍しい歌い方というわけでもないと思うんだけど、とりあえず内容としては裏声を使う歌手だ。


 女性のファルセットは混ざるとわりと聞き分けづらい。完全に裏返った声がファルセットだと思っている人は世の中に多いと思うしその理解も間違いではないが、厳密に言えば地声からスムーズに裏声に行くのはある程度低い音域からファルセットが混じり始めていることが多い。少なくともやなぎなぎに関して言えばそうだ。高い音というより全体的に裏声が声の中に混ぜられている(俗に言うミックス気味の状態)のでふわっとした歌になるし、高い音に行くとより完全なファルセットに近づいていく。結果的には、ファルセットと地声をシームレスに歌う歌手だと言えばわかりやすいと思うし、声域が広いと言われるのもそういう特殊能力があるよという話よりは、先天的にキーが高いのに加えてファルセットの音域が使えるよという話だと思ったほうが正しいと思う。それに気が付きにくいかもしれないが、よく聞けば完全に裏に行っている部分も他の歌手に比べて多い。地声と裏声の境目が曖昧になっていることによって結果的には歌の中でファルセットを使っても違和感がない状態になっている。
 一般的にこのような歌い方はかなり乱れやすく、基本的には美しい発声を使うか声量を落とすことが前提になる。両者の間には明確な違いがあるが、まあどっちで対処しようが殆どの聞き手はこの手の歌手を透明感のある声とか澄んだ声の持ち主として技術のある歌手だと思ってくれる事が多いし、アニメ的な文脈に関して言えばこれはフォーマルに歌う歌手より囁いて歌う歌手の方が多いわけだが、そのような歌手の殆どは音程が曖昧という問題を根本的には解決出来ずに不安定さから売り込んでいくようなスタイルになる事が多い。


 やなぎなぎも昔はそういうキャラクターで売ろうとしていたところが少しは有ったと思うし、マイク乗りが良いのか先天的なものなのかキャラクターの割には細さを感じにくい歌が多いが、今でも根本的なところでは声量を抑えて声をコントロールしている。supercellの頃言われたように素直に声が出ているかというと疑問を感じる部分はあるが、とりあえずここまではソフト的な部分で順調に歌手として成熟してきたと言えるだろう。一番個性的なのはCDで聞く限りでは音を外さないことで、似たような個性の歌手のなかでも他にないような地に足の着いた歌になる他に、起伏のある歌を歌っても聞き手がメロディーを理解できる(要は、多少難しい歌も意味不明な曲にはならない)という良さもある。少なくとも音がふらつかない音源が出てくることはこの手の歌い方をする歌手の中ではかなり特徴的だと言える。

 

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やなぎなぎ「Ambivalentidea」PV_90sec

 

 大雑把に言えば一般的な儚さで売るような歌手は、基本的にオケを派手にすると歌が隠れてしまうのでオケからは緩急をつけづらいし、結果的に変化の少ない音楽が出来やすい。高音寄りの部分ではピアノみたいな少し音色のかたい楽器を使ってアクセントを付けることもあるけれど、特に低音は曲の雰囲気を損なわない為に大体の場合スカスカになる。その分楽曲に表現をもたらすためには囁いて歌詞を聞かせることが多いので同時にメロディーラインも平たくなる事が多いが、場合によってはボーカル自身が楽器のようになってインスト的に高尚なことをしているものもあるし、そこの境目は今の段階では非常に曖昧だといえる。三澤秋ややくしまるえつこなどは、僕は昔はそんなに好きではなかったが、ユリ熊嵐でボンジュール鈴木を聞いたぐらいの頃から毛嫌いすべきものではないと思ってたまに聞くようにしている。

 

 やなぎなぎの曲は特に最近のものはオケが分厚くて勢いのあるアニメソングが好きな人にとってはザ・ボーカル曲みたいなものが多いのでそれはぜんぜん違うだろうという印象を受けると思うけれど、なんというか発声としては変化をたどればそこを経由してきたという以外に説明できない部分があるし、今でもそういった声はCDになるにあたって最大限利用されている。迫力のあるものが歌える理由は、基本的には先に上げたような声質(こえしつ)と音程の精度によるものだと思うし、最近は力のある高音部分を聴かせる歌が増えてきたとともに息の割合が目に見えて減ってきたことで、一般的なボーカル音楽に近い方向にかなり舵を切ってきたと思う。

 


11月7日発売やなぎなぎ「ラテラリティ」PV(90sec)

 

 更に昔の話をすると、supercellで君の知らない物語やさよならメモリーズを歌っていた頃は、すぐに裏に行くので高い音域でも音を取ることが出来るというやや歌が上手い女子校生みたいなところのあった歌に、人間としてはかなりキーの高い楽曲が支えられていたが、やなぎなぎとして歌い始めてからは一貫して非常にポップスのシンガーらしい歌になった。曲の流れから脈絡なく裏に抜けないように、高音域を少し地声を混ぜて吊り上げるになったし、まあ技術的な問題も多分にあるだろうが、曲の作られ方からもファルセットはそれと分かるような位置で表現として使われることが増えた(もっと正確に言うなら、誰が歌ってもここは裏に行ったほうが綺麗だろうなという裏に行くべき箇所が明示的に示されている曲が増えたし、それに従ってボーカル曲として理解しやすいものが多くなった)。結果的には喚声点が高い方へ移動したと言えるが、それにともなって全体が高い方にシフトしたというような事が言いたいわけではなく、単純に裏に行かない余地を生むことで歌に表情を与えてきたといえるし、supercellの頃と比べると聞き心地としては音程の差以上にわかりやすく大きな変化があると思う。

 


【やなぎなぎ】11thシングル「オラリオン」MV -short ver.-

 

 特に最近の曲はオケもそうだがメインメロディーもわりと起伏が激しいし、こういう声を使う歌手の中だとそれが一番の個性と言えるかもしれない。

 歌を柔らかくしようとすると難しいメロディーを歌っても意味不明になることが多いし、そういう歌手に難しいことを要求するファンもアーティストも従来的には少ないという話だと思うんだけど、この歌手は高い音が割としっかりと出るというところを起点にして少し変わった方向性で王道的なアニメソングに向かう足場を固めてきたと思う。まあ歴史の話をすればそこが中継地点になっているというだけの話なんだが、そこを一度経由しないと当時のファンやスポンサーに見初められることもなかっただろうから、そんなに無益な話でも無いはずだ。

 

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【やなぎなぎ】10thシングル「春擬き」視聴用MV

 

(2013年に販売されたユキトキ(オリコン17位)から2年ほど後に続くような同じ系統の曲がなかったけれど、2015年に登場したやはり俺の青春ラブコメ(ry のタイアップの春擬きはオリコンチャートで自己最高の8位に食い込んだ)

 

 この人の場合はCDから技術的な向上を理解するのはキザな詮索に過ぎないようなところがあると思う(というかCDという文明の利器からそれをすること自体どんな歌手に対してであれキザな試みには違いないんだけど……)。メジャーデビューから6年以上経っているわけだから段々うまくなってはいるんだろうが、元々歌唱にCD的な表現が多いので、技術的な着眼点からどの程度直されているかどうかは殆どの人にはわからないだろうし、少なくとも僕にはあんまりわからない。

 そもそもこういう人はあまりうまくなると絶妙なバランスのCDが作れなくなるし、それを期待するのは最初から筋違いなところもある。個性を残せないと何をしても結局は売れなくなるし、ポピュラー的な音楽のシンガーにとってはそっちのほうが重要だともいえる。

 

 今後どういうふうな曲が出てくるのかはわからないが、最近の傾向を見ると端的に速くてメロディアスな流行りっぽいものが続いている。アニメソングだから曲の系統も売れ行きも結局はタイアップとの相性次第だろうが、今アニメソングに求められているようなこととやりたいことがかなり一致していて、たぶんこれからも順当に売れていくんだろうなという雰囲気を感じさせる、広く支持されそうな音楽性の中によく定まったキャラクターを持った歌い手だと思う。今後の活躍にも期待したい。

 

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