試しにアニソンを聞いてみる。

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歌手の話 TRUSTRICK 神田沙也加(FLYING FAFNIR、未来形answerなど)

 この歌手は少し変わった経歴を持っている。松田聖子の娘というだけで話題性はあるけれど、とりあえずアニソン的には去年TRUSTRICKを結成してからシングルを3枚とアルバムを2枚出している。このアルバム2枚というのは、デビューから10年以上が経ち歌手としての方針が固まっていて既に神田沙也加のファンがいることから、TRUSTRICK名義で最初に曲を出して置いてライブを中心に活動しようという話じゃないかと思うし、実際アルバムにはアニメの主題歌であるシングルとは大分雰囲気の違うJPOP的なポップスが入っているように見える。
 僕が初めて聞いたのはFLYING FAFNIRだけど、これは吹雪とは別の意味で非常にシンプルな曲だった。神田沙也加の声を聴かせるために作られたような曲で、実際神田沙也加には宇多田ヒカルみたいな歌を歌っていてもおかしくないような美しさがある(と言うか実際にアニメソングになっていないところではそんな感じの曲を歌っている)。技術や素質ではコンスタントにアニメソングを歌う歌手では他にない程のものを持っているし、少なくとも歌っているのを聞けば明らかにややフォーマルなポピュラー(一見意味不明な表現だが)出身であることは分かる。声や技術のフォーマット自体をかなりポピュラー向けにする術を本人が持っているとも言える。
 

 


TRUSTRICK / FLYING FAFNIR【Music Video(short ver.)】

 

 

 加えてFLYING FAFNIRにはどことなくアニソン的な部分があるのが面白いところだ。なんというか一言で言えばポップスのシンガーをロックの上に置いたような曲になっている。
 メロディーに激しさがなくオケにもアタックの弱い(音量のピークが鳴り始めから遅れてやってくるためリズムを作りづらい)弦が多用されている他方でノリ方は等間隔に刻んでいくので、グルーヴ感もオケの主張も少なく曲が平たく聞こえる反面で、譜面に出てこないような歌手としての表現にはポップス的な柔らかさがある。普通に行けば聞き所がない歌になるところに表現を出すことが出来るのは彼女の歌手としての技量なのだ。アニソン的に見ればポップス的な表現ができるのは珍しいことだし、実は歌に表情を出すのは複雑なロックを歌うよりも難しいところがある。ボーカルの王道は結局R&Bで、そこでは歌手が曲を主体的に変えていくことが求められており、譜面通りに歌う技術というのはある意味あって当然のものなのだ。
 じゃあなんでアニソンは譜面通りに歌えないかというと、歌い手の技量の問題もあるが、人が完璧に歌えることを前提とした曲作りがそもそもされていない部分があるからだ。緩急の激しさやテンポの速さに加えてひらがな一つに音符一つが対応する日本語固有の過剰な音符の密度が歌いづらさに拍車をかけていて、ある意味アニソンは最初から歌に収めることが目標になっている部分があるのだ。
 
 少し話を戻すと、神田沙也加は歌に表情を出すという観点から歌を構成する技術を当然のように持っていて、しかもそれが恐らくポップス的な部分から来ているというアニメソング的には珍しい歌い手なのだ(それがFLYING FAFIRで突き詰められているかというとそんなことはないと思うけど、少なくともロックから来た歌手はあのアレンジを壊さずに歌うことは出来ないとも思う)。
 
 そしてそれがこの歌手の難儀な所だと思う。普通に神田沙也加に歌わせて様になる曲は、アニメソングとしてスタイリッシュ過ぎるという話だ。FLYING FAFNIRはそういう折り合いから出来た曲だと思う。アルバムを聞く限り他にもっと特徴的で神田沙也加のキャラクターが現れた歌はあるはずだけれど、ファフニールのOPとして作るという部分からアニメソング的なものに仕上げようという感じがあったと思われる。しかしそこにはアニメソング的な表現があるというよりは、神田沙也加の既存の技術とノウハウと、アニソン的な表現の共有部分だけを残したという感じでよく言えばシンプル、悪く言えば聞き所の少ない楽曲になっている。

 

 


TRUSTRICK / 未来形Answer【Music Video(short ver.)】

 

 

 俺物語のOPになっている未来形アンサーもらしい部分はあって曲としてはわかるけれど、ざっくりアニソンと神田沙也加のJPOPらしさの中間地点を取りに行った曲だと思う。
 
 神田沙也加がアルバムやシングルのカップリング曲として歌っているキラキラでお洒落な曲にアニメーションがつけば新鮮さはあるだろうし、ミスコミュニケーション的な部分なのかそれとも実際に顧客の要望でアニメソング的に無難なものを作っているのか分からないけれど、それだと神田沙也加という歌手はなかなか生かされないと思うし、上手くいかないものだと思う。

 

 


TRUSTRICK / If -君が行くセカイ-【Music Video(short ver.)】

 

 

 前回の西沢幸奏もそうだけど、基本的にアニメソングとして解釈される音楽の幅はJPOPの方に向かって広がっている。そして、ポップスのプロとしての実力を持ちかつアニメソングでたくさんシングルを出してくれる歌手がいるのにそれをアニソンの方へ合わせるのはもったいない。
 
 アニメソングというのは声優曲を除けばアニメの主題歌であるというだけのことで音楽的には拘束力のないジャンルだ。とりあえずなにかアニメソングに落としこむためのベースがないと立ち往生するし、何処かからベースを借りてくるなら神田沙也加本人から借りてくるのが一番いいんじゃないかと思うし、何より神田沙也加という人材が生かされない世の中はちょっと非合理的すぎるし余りに救いがないと筆者は考えてしまう部分がある。
 

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・FLYING FAFNIR

何度も聞けばシンプルでまとまりがよい中に出したかった表現があることも分かる一方で、ノリもドラムのリズムも一定なのには返って難解さがあるだろう。とは言え聞く度に発見があるような曲でもある。

FLYING FAFNIR

FLYING FAFNIR

  • TRUSTRICK
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

・if -君が行くセカイ-

神田沙也加が歌うという意味ではどこを目指して作られたのかわかりやすい分楽に聞けるだろう。手堅すぎる部分もあるとは思うけれど、勝手なことを言えば僕らがよく聞く音楽は自然にしていれば一週ごとに12回しか聞かれないという面もある。

If -君が行くセカイ-

If -君が行くセカイ-

  • TRUSTRICK
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

・highness

聞けないんだけどサビが面白い。記事の趣旨だけから言えばこのままだと使えないかもしれないけれど、少なくとも聞いた人はTRUSTRICKに対するイメージはかなり変わるだろう。

highness

highness

  • TRUSTRICK
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes