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ポピュラー音楽とフォーマルなボーカリストの話 西沢幸奏と鈴木このみ

 

 綾野ましろの記事で軽く西沢幸奏と鈴木このみの話をしたと思う。鈴木このみに関してはどこが上手いのかに記事の中で言及したけれど、西沢幸奏は事務所とレーベルがどれだけ期待しているかみたいな話をしただけの状態だと思うので、彼女の歌について出来る範囲で触れたいと思う。

 

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 以前鈴木このみの歌は非常にフォーマルだと表現した。実際彼女はミュージカル出身なのでそんな感じの歌も多いし、教科書的な技術で言うなら突き抜けた素晴らしい物がある。


 ポップス的なキャラクターの歌手は比べるならそもそもハンディがある。フォーマルの歌手はレギュレーションが違うし、瞬発力に関して言えば短距離のトレーニングを積んできた陸上選手と足の早いスポーツ選手を競わせるようなもので、中には競技を間違えているような人もいるものの根本的に差がつくのはある意味当たり前だ。そんな中でポップスの歌手の秀でていることを探すとすると、滑舌をわかりやすく刻むことだと思う。

 

 元々鈴木このみも滑舌が聞き取りづらいということは全くない。かなり聞き取りやすいはずだし、ミュージカル出身者なんだからそれは当たり前だ。ここで言いたいのは、歌が滑舌で弾けるような子音の強さと、子音で歌を刻む傾向があるかどうかということだ。

 フォーマルな歌では滑舌はメロディーの上に「乗っている」。それに対してポピュラー的な歌は、メロディーの中に滑舌が「組み込まれる」物が多い。端的に言えばポップスは音楽的に全く同じメロディーを別の歌詞で構成するのがそもそも難しいようなところがある。譜面上のメロディーだけでなく、どの音声の後にどの音声が来るという音の切り替わりからも歌を構成しているからだ。これは音声が変わる勢いで音を取るということで、はっきり言ってしまえばそれは多くのポピュラーの歌手は技術的な要因からフラットな歌が歌いたくても歌えないから、メロディーを作るのに言葉に頼る必要があるという部分もある。(メロディーと滑舌との間には厳密にはトレードオフが成立していて、滑舌を重視するとメロディーの再現性が低まり、メロディーの再現性を高めようとすると滑舌の取り方が十分でなくなるような部分がある。多くのポピュラーの歌手はメロディーの再現性を高めることではなく歌の畑を経由しない人にとってもなじみ深い滑舌を取ることに重きを置いていて、良くも悪くもそれがポップスらしさを生んでいる。逆に言えばフォーマルな歌手はメロディーの再現性を高めることに重きを置いているため、違った滑舌のメロディーをある程度音楽的にフラットな歌にすることが出来るが、その分何を言っているのか聞いている側もよく聞き取れないような音楽が出来上がることが多い)。

 しかし全てのポップスの歌手が滑舌に縛り付けられているというわけではない。ポピュラーの中にも滑舌に振り回されるのではなく滑舌を上手くコントロールしている歌手もいるし、繰り返しになるがよくも悪くも滑舌が強調されることで軽快になるのがポップスの最大の個性だと思う。そして少なくとも西沢幸奏はかなり綺麗に滑舌を使いこなしている歌手なのだ。

 

 歌の世界を経験していない多くの人がCDにならないような舞台歌手の上手いとされる歌や声楽の歌の上手さが理解できないのは、結局殆どの人は誰もが日常会話で慣れ親しんだ滑舌から歌を理解しようとしているからなのだ。綺麗な歌からはメロディーの再現性を高めるために滑舌が意図的に排除されているような部分があるから、綺麗な歌は滑舌から歌を聞こうとする人にとってはそもそも理解不能になってしまう。その意味でミュージカルの滑舌はフォーマルというには強調されているが、ポップスと比べるとあまりにフォーマルな音楽に近い。なので、このブログでは鈴木このみの音楽はフォーマルだと「勝手に」表現させて貰っている。

 

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西沢幸奏/Brand-new World Music Video(2chorus)_TVアニメ「学戦都市アスタリスク」オープニングテーマ

 

 僕はポップスから歌を聴き始めたので、物理法則を上から下まで使うような鈴木このみを聞くのもかなり好きだけど、西沢幸奏の歌にはなんというかとても安心感を覚える。

 

 今回はBland-new worldを取り上げる。この歌では派手にミックスが使われていて、サビだけでなく全体的に黄色い感じの声(?)が使われており、高い音ほど裏の声の量が増えていく。地声との違いは聞いている限りではわかりにくいかもしれないけれど、吹雪のカップリング曲のMeaningが聞ける人はそれを聞くとわかりやすい(聞きたい人は出だしだけだが下のスポンサードリンクかCDで聞いてほしい)。

 

 Meaningは地声を駆使して歌われていて、サビで裏に抜ける一番高い音がレの高さだ。ところでBland-new worldのサビの最後のフレーズで使われている笛みたいな声(弱さの化身も、と、全て込めて解き放て、の高いところ)はミなのでこちらのほうがキー2つも高い。非常に強い声なのでこの歌で裏の混じった声が使われているという印象自体を受けない人も多いと思うけれど、比べて聞いてみると別人のような声の出方をしているのがわかると思う。

 

 上で滑舌の話をしたが、西沢幸奏の滑舌は明快に存在が認識できる上に、非常にシンプルで美しい。西沢幸奏の歌の癖の無さは滑舌の明快さ故だし、それは発声のシンプルさから来ている。

 滑舌の質というのは具体的には音の前後で流れがどれ位切り替わるかで分かる。滑舌が激しいものとしてはMay'nのViViDなんかがわかりやすいと思う。

 

 イメージをつかみやすくするためにもっと説明すると、滑舌が強烈かどうかは

・前の発音が終わってから口が次の発音を作るまでにかかる時間と、

・口の形を作って実際に音を出し始めてから音程が安定するまでの時間(次の音に行くまでの間に前の音が残る長さ)で決まる。

 

 発声が個性的だと滑舌を整えるのに必要な時間は結果的に長くなるため、歌の中で滑舌を作っている時間が増える。JPOPの歌手は寧ろその滑舌を作る時間から歌を作っていくような人が多い(滑舌を利用して音楽を組み立てている)が、他方で西沢幸奏は発声が良いため発音を作るのが非常に上手く、次の発音に入るまでがスムーズなので滑舌が揃って聞こえやすい部分がある。よく言えば、滑舌に振り回されずに音楽を組み立てることに成功していると言える。

 対して、発音を作り終えて次の音程を歌い始めてから前の音程をちょっとだけ引きずる部分は他の歌い手と同じく彼女にもかなりあって、そこが彼女がポップスの歌い手であると明確に判別できる部分でもある。前の音を残して後ろの音にスムーズに繋げるのが西沢幸奏は上手いから、結果的に滑舌がさり気なく聞こえる。

 

 そして西沢幸奏の違うところは、この手の歌手によくあるように、高い音を出す必要性から下から音を持ち上げる(いわゆる「しゃくる」状態)のではなく、ある程度演出としてそれをしているところだ。前の音を残すことをコントロールしているので歌の中で言葉が揃っているように聞こえる。これが彼女の歌の聞こえの良さを一番明確に説明できる理屈だと思う。

 

 他方で鈴木このみは正しく音に入る技術として、特に厳しいフレーズにおいて滑舌を整える間に音程を合わせ終わっている。西沢幸奏は発声がわりとよろしいのでその作業が楽に終わるが、次の音への入りはポップスの歌手らしく前の音を残す。聞いていて一番明確な差は次の音に入った瞬間前の音が残っているかどうかだ。

 


鈴木このみ「Absolute Soul」MV(TVsize)

 

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 鈴木このみの歌でも余裕があるときは前の音程を残してあったり、あるいはそれと似た効果を生むために故意にタメを作って遅れて入るようなものがわりとあるためそこが前の音程を引きずっているように聞こえやすい。なので上のAbsolute soulを聞いて先頭から正しく音に入っていると思った人は元より、そんなこと無いんじゃないかと思った人の耳も間違った歌を聞いているとはいえないが、それは今まで歌を聞いてきた経験から、「音が後から強くなっていくところでは音が高くなっていく」という直感を働かせているのに近いと思う(特に、Aメロのふさがれったかっこ「にー」 たたかいーのいーま「にー」の音などで、アクセントを後からつけているので、実際には先頭から正しく音に入っているのに後ろから音をしゃくって持ち上げているように錯覚しやすい)。そしてそのアクセントを遅らせるのも彼女が自分の歌をポップスにする為にわざとしていることで、辛いフレーズでは音に入ってから音程に殆ど変化はない。

 鈴木このみの場合は音をずらすより、アクセントを遅らせることでポップス的な効果を生んでいる事が多い。少なくとも上記のMVだと音をずらすのではなくアクセントで遅れて入ることが行われているのでそこは注意深く聞いて欲しい。音がすとんと入るということだけなら、Bメロ以降の歌が難しくなってくるところは特に分かりやすい。そして同時に理解して欲しいのは、アクセントに変化をつけないと彼女の歌は綺麗すぎてポップスではなくなんかの高尚な音楽になってしまうということだ。

 

 最後に、なんで僕が西沢幸奏を持ち上げるかというと、結局歌の基本は歌をメロディーにすることにあるからだ。いろいろな背景や耳を持った人が歌を聞くことが前提になっていて、多様な個性みたいな部分から歌を理解することが要求されるような昨今の文化の中にも、綺麗にメロディーに出来た人の勝ちみたいな部分があればそこには安らぎを覚えるし、結局歌はそこから始まっている。特に彼女のいいところは、ポップス的なキャラクターから逸脱して正しく歌うのではなく、ポップス的なキャラクターがありながら綺麗なメロディーを作るところで、それはポップスらしさとテクニカルな部分を両立していこうとしているこれからのアニソンや、もっと言えばJPOPに必要なことだと思うから、僕は勝手に注目している。この先どうなるかはわからないが、これからもいろいろな歌を歌って世に送り出してほしいと心から願っている。今回はここまでです。

 

 

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