今の時代でどうなのかは分からないけれど、昔はLiaと言えば鳥の詩だった。曲名で検索すればいくらでもそれらしき形跡が引っかかるだろう。ノベルゲームで一時代を築いたkeyの代表作Airの主題歌なんだが、今聞くと何であんなに知名度を持っていたのかよく分からない部分もあるけれど、当時はおたくを名乗る人間ならだいたい誰もが知っているぐらいとにかく有名だった。その後もLiaはkeyのゲームや関連アニメで今に至るまで歌を歌っているので、あの曲はLia自身のキャリアにもかなりの影響を与えたんじゃないかと思う。
Angel Beats! 第1話 「Departure」 ‐ ニコニコ動画:GINZA
(~1:30 My Soul,Your Beats!)
6月26日発売予定『Angel Beats! -1st beat-』OPムービー
(Heartily song)
Heartily songやMy Soul,your Beats!等、時を刻む唄以降のkey楽曲は、非常にシンプルなドラムに加えて打楽器であるピアノでリズムを補うことで、楽曲に複雑さを生んでいる。ピアノがリズムを作ることで曲がカラフルになるし、その上に壮大でふわふわした弦楽器とボーカルが乗る。これはインスト音楽(特に電子音楽)から女性ボーカルへのアプローチとして、ゲーム音楽や同人音楽にはよくあるタイプの曲だ。ドラムンベースとか言われることもあるが、まあそれは極めてゲーム音楽的な用法だと思う。
このような楽曲でボーカルには二通りの生き方があり、一つは三澤秋のようなよく言われる表現で言う透明感のある声というか息っぽい声。もう一つは技量のある歌手がファルセットで歌を聞かせていくもので、Liaは後者だ。keyとのタイアップにかかわらず似た傾向の作品が多いけれど、基本的な考え方としてはLiaは歌としての高尚さが売りで、その高尚なLiaの歌が場違いにならないような作品が自分たちにはつくれるという自信がkeyにはあるということなのだと思う。
最近の曲は鳥の詩の頃と比べるとテクノ的な感じが少し薄れている。弦楽器でダイナミックに仕上げる分メロディーや他の楽器も華やにできて、鳥の詩よりもずっとカラフルな音楽が多い。それに伴い実はLia自身もややポピュラー向きな表現を会得している。(鳥の歌の時期のLiaは、正規の音楽教育を受けてきた人のようとしか言いようがないような非常にフラットな歌を歌う歌手だった。普通ポップスらしくするというのは滑舌を崩すか歌にアクセントをつけるかだが、彼女は今は歌の中でアクセントをコントロールしてボーカルをリズミカルにダイナミックに見せる技術をよく活用している。平たく言えば歌に表情が出るのはオケの手柄や歌手の生まれ持ったものの手柄だけでなく、ポップス的な技術がそこに宿るからだという当たり前の話だと思って欲しい)
(ローレライの詩)
わりとどれを聞いてもボーカル的におかしいことはないのも特徴なんだが、この歌手の中で特筆すべき曲があるとすると個人的にはローレライの詩と絆色を推したい。ローレライの詩は他とは明らかに方向性の違うハードロックで、リズムを明確にするオケと綺麗にロングトーンをメロディーの上に置くLiaの歌が咬み合っている。
基本的にアニソンというのは難しいので、難しいなりにポピュラー的なものとは違った形で歌手の技術を問うことが出来る。具体的には、ポピュラーは歌手に自由を与えて表現力を聞く(し、それが寧ろ世界的には歌手の技術だとされることが多い)が、アニソンは難しいメロディーの中に収めるという歌にとって根本的な能力を問うてくるし、それはそれで表現を聞かなくとも、別次元の技術をもつ歌手にやらせてみると美しい。
FORTUNE ARTERIAL 赤い約束 第1話「渡り鳥」 ‐ ニコニコ動画:GINZA
(0:30~2:00 絆-kizunairo-色)
絆色はなんというか非常にポップでカラフルな音色のロックだ。Fullでは出だしからストリングが16分をキコキコと刻んで入るので明らかに他と違う聞き心地がすると思うし、サビではハイハットが裏打ちをする。チキチキと細かくリズムを感じさせるような作りの曲で、ボーカル的に特筆すべきところもやはり歌い手に(平易ではあるものの)リズムの刻みを要求していることじゃないだろうか。
フォーマルな歌い手は普通長くゆったりとしたフレーズをメロディーに乗せていく。keyの楽曲を聞けばわかりやすいけれどLiaは元々は典型的にフォーマルな歌手だし、今でも基本的にはそういう性質があるけれど、華やかに仕上げればこうしたポップスともぶつからないことが分かる。
ここまでの流れを振り返ればBravely Youは非常に画期的な曲だ(適当な動画がなかったので聞きたい人は勝手に探してみてください)。今の時点で一番新しい楽曲だけど、これまでよりドラムとベースの活躍が大きい分決定的にロックらしいし、サビは従来の楽曲にやや近い弦楽器で聴かせる作りだけれど、ベースが裏にいてドラムが8分を刻んでいるだけでバンド音楽として明快で理解しやすい。どことなく前衛的なピアノもジャズっぽく理解しやすいアレンジになっていて、ポピュラーミュージックとしてとても合理的な曲になっている。(まあそれ故の地味さのようなものも一方ではあるわけだが、サビのLiaのファルセットはそういう部分を払拭できる程のインパクトがあるだろう)
そういうわけでLiaの楽曲は今に至るまで、ポピュラー的表現とフォーマルさの間を行ったり来たりしならがらポピュラーの方へ舵を切っている。ポピュラーとしてのLiaも既に相当確立されているような気はするけれど、そうした傾向が今後大々的に出番が増える皮切りになって、Liaという卓越した歌い手がアニメソングの中で存在感を増していって欲しいと期待している。
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他の記事。
・歌手の話 田所あずさ(DREAM LINE、運命ジレンマなど) - 試しにアニソンを聞いてみる。
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・My soul,Your Beats!
後から思い返せばLiaが今の方向性に流れていくための転機になったような曲。ピアノがカッツリと曲の枠組みを作っている分、サビに伸びやかにストリングを使っても丸投げ感がない。
・絆-kizunairo-色
Key以外の立場からLiaにアプローチした結果、従来の曲とはぜんぜん違うものが出来た曲。その後のLiaのシングルには影響を残せていないようだが、個人的にはとても気に入っている。
・Bravely You
ベースとドラムの主張が強い分新しいが、曲全体からすればあくまでkeyらしさの系譜を引き継いでいると思う。初めてのバンド的な音楽だということで、この曲が今後にどう繋がって行くのかに少し興味が湧く。