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歌手の話 鈴木このみ(Absolute Soul,銀閃の風,Beat your Heartなど)

 

・新譜紹介

Beat your Heart

Beat your Heart

  • 鈴木このみ
  • アニメ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 ブブキブランキの主題歌であるBeat your Heartはわりとタイアップが意識された楽曲なのかなという感じがする。何でもできるという技術的な根拠のある器用さからどんな歌を歌っても器用な歌を歌うように聞こえる部分はあるけれど、個人的にはもっとアクセル全開で最後の直線を千切っていくような鈴木このみの別の側面も見てみたかった。

 

I to I

I to I

  • 鈴木このみ
  • アニメ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

 カップリング曲のI to Iは特にサビ以前では裏声の混ぜられた声がなめらかに使われて高音主体でありながら辛さを感じづらい曲になっている。このような歌い方は一般に歌がふわふわとしやすい傾向があるけれど、この歌はリズムも正確に刻まれており音も非常に正確だからか全体を通してスピード感のある仕上がりになっている。


 AメロBメロでゆったりとミックスが使われているところで、サビからはスイッチが切り替わったように綺麗に地声とファルセットに分かれて一層スピーディーになる。曲調が極端に変わるわけではないのにメリハリがある曲に聞こえるのは歌い方の違いが原因だが、まあそういう理屈は関係なくこのメリハリ的なものが気に入るかどうかで好みが別れる曲だと思う。

 

vmayfy.hatenablog.com

 

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 この人はオーディションで選ばれただけあってかなりキャラクターが定まっている。May’nが目標だと語ったこともあるように全体的にハードロックらしいし、どの音源を聞いても曲の中で似た扱われ方をしている。要はアーティストが鈴木このみに歌わせたい曲のイメージに一貫性があるということで、それが聞き手の鈴木このみのイメージにも影響を与えるのは承前だ。そして、キャラクターが定まるのはどんな歌を歌うにしても歌手としてこれ以上ないほどに重要なことなのだ。
 
 中でもらしさが出ているのはDAYS of DASHと銀閃の風だと思う。
 
 


銀閃の風/鈴木このみ TVサイズMV(魔弾の王と戦姫OP)

 

銀閃の風は一貫して重厚な音のオケで歌われるため、歌に力のある歌手でないとオケを持て余して、何でこれを歌わせたの? という場違いな曲になってしまうような危険をはらんだ楽曲だ。ボーカルがオケと戦うことが求められる、アニソンや同人音楽のハードロックの要素を抽出して煮詰めたような曲に仕上がっている。カップリング曲のオラシオンは茅野愛衣のカヴァー楽曲だけれど、少しミュージカル的な要素があり彼女の魅力を素晴らしく光らせている。
 

 

 
 DAYS of DASHは鈴木このみらしいというより、そのまま鈴木このみという歌手の素材が現れている。メロディーが簡素で音に幅があるJPOPらしさとアニメソングらしさが同居したような楽曲で、非常に余裕のある中で表現をアピールできる。裏声も他の曲より簡明で、ポップスならどうなるのかということがわかりやすいし、比較対象が得やすいことで他の歌手との距離感もわかるような曲になっている。

 
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 鈴木このみは非常に伸びやかな歌を持つ正統派の歌い手だ。以前一通り意見を晒した艦これエンディング『吹雪』の西沢幸奏も正統派だけれど、西沢幸奏の技術はよりJPOP的な要素が強い。
 一番わかり易いのは滑舌の取り方だ。明確な滑舌は歌に明快さとノリを生み出すためポップスに置いてやや好まれる一方で、鈴木このみは滑舌を取ることに重きを置いていない。より正確に言うなら、滑舌は間違いなく明確に取られているが、そこにJPOP的な意味合いでの重点があるわけではない。
 
 やくしまるえつこやボンジュール鈴木のようなものでない限り歌には必ずアクセントがあって、基本的にポップスではアクセントを取るのに滑舌が利用される。普通に喋っている時は誰だって言葉の上にアクセントがあるし、言葉の上にアクセントがない話なんて聞きづらくてしょうがない。しかしリコーダーやピアノのような楽器にすら強勢はあるように、声を音だと考えると、音楽的には発音がないとアクセントが作れないわけではない。試しに声楽のようなものを思い浮かべてもらえれば、滑舌がないとアクセントが取れないというわけではないことがある程度すんなり理解できると思う。
 しかし、音楽的に綺麗な歌を歌おうとするとどうしても滑舌は綺麗に取りづらい傾向がある。一つのつながりを持ったメロディーを滑舌が切り刻んでしまうのを避けるため、出来るだけ歌から滑舌の影響を排するのがフォーマルな音楽なのだ。そんな中で、鈴木このみは広くて洗練された意味での「日本語のポピュラー」として、お手本のような熱唱をする歌手だ。多分ミュージカルという言葉を聞かせる分野の技術が、音楽的な正しさと滑舌になるということの精度を歌の中で両立しているんだろうと思うが、そのあたりでも彼女の技術は、フォーマルなところが基調になっていながらポピュラー的な音楽によく落とし込まれていてとてもわかりいい部分がある。

 逆に一般的な意味で言う「JPOP的な個性」なるものが、殆ど滑舌から音楽を作っているような部分すらあるを考えると、鈴木このみの歌は相対的に音楽的な正しさがあるが故に、卓越した技術の表出としての滑舌の軽快さが、傍目には「分かりやすすぎてつまらない」と思わせるような部分もあると思う。(僕の知る限りこの世のほとんどの人は、歌を聞くというと「発声」を聞いているつもりでいて、もっぱら日頃の会話で親しみなれた「音程と滑舌」を聞く傾向があるわけだが、)しかしその滑舌の分かりよさも、彼女の技術故なのだと思えば納得がいく部分が多々あるんじゃないかと個人的には思っている。少なくともアニソンの中における彼女の技術は卓越していて、手放しに評価されて然るべしものだ。

 


鈴木このみ「AVENGE WORLD」TVサイズMV

 AVENGE WORLD/世界は疵を抱きしめるでは、アニソンロックから見た鈴木このみという歌い手の瞬発力が分かりやすく表現されている。

 アニソンのロックはある程度強制的に言葉で刻まされる上に音楽的にも難しいという往々にして綺麗に曲に収めるのが大変なものなので、大抵の場合はギリギリのところで窮屈さがある。普通に考えればこの二曲はちょっとやり過ぎの向きがあるし、アニメソングというある種のポップスに含まれるフォーマットの中で「技術」を問うことの難しさみたいなものについてもとても考えさせられる部分がある。簡単に言うと、「アニソン」であるが故に極めて難しいものを、「ポップス」であるが故にさりげなく歌うことを強要されるので、一歩間違えば音源として「無理とわかるもの」や「不可解なもの」が出来てしまう可能性もあるわけだが、鈴木このみの場合は純粋に技術でぶん殴ることによってそういった破綻を防いでいる。


 

  (1:44~2:48 オラシオン)

 

 しかし日本語でポピュラーをやるならアニメソング以上にメロディーで歌手の技術を問うような分野はあんまりないのも事実で、とりあえず鈴木このみは現在的なアニソン歌手の中では恐らく最も音楽的な難しさをボーカル的表現に落とし込める、手垢にまみれた表現をすれば真っ当に歌唱力のある歌い手だ。彼女はフォーマルな歌い手としての潜在能力の上にロックやポピュラー的な技術を積み上げて歌にしている、とても面白くて他にない可能性を秘めた歌手なのだ。

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・銀閃の風

銀閃の風

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  ・世界は疵を抱きしめる

世界は疵を抱きしめる

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オラシオン

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