この人も今年のアニサマのライブDVDと思われる映像をNHKが公共の電波で垂れ流しているのを観た時から少し興味を持っている。μ'sの南ことりの中の人としての活躍が一番知られている気がするけれど、あざとい声の中に力強さが宿っているので侮れない。
おそらくはあの歌を方々で歌っているんだろうけど、現場で聞いたらどんなふうになっているのかちょっと想像がつかない部分がある。明らかに声を作りながら歌を歌っている(胸の上に手を当てるのは凄くわかりやすいクセだ)し、それで現場でもCDようなクオリティで歌えてしまったらとんでもないことだが、聞いている限りではその可能性もあるのかなとどこかに感じさせる安心感もある。特に高音が裏声に入っていくのがとてもスムーズで聞き心地が良い。人によっては裏に行ったのに気が付かないだろう。
アップルミントは個性的な曲だ。ロックテイストなんだけど、サビ前から歌い手のいい音域を使う作りになっている。地声やミックスボイスは音が高くなるほど音が大きくなって独特の艶を帯びてくるので、普通ボーカル曲は聞かせどころのサビに最も高い音域をぶつける。逆に言えばサビの前でその音域を使ってしまうと、サビに入ってからも盛り上がりのない平坦な曲という印象を聞き手に与えかねない。
しかしこの曲はサビからガラリと展開が変わって間奏が終わるまでが非常にコンパクトで、音楽的な意味でのストーリー性がわかりやすい。特にサビからは4つ打ち→裏拍→ドコドコというバスドラムの使い方で展開を完結に表現しているので非常に簡明だ。イントロ部分がサビと違うフレーズなのも聞き手が興味を惹かれるポイントで、普通イントロを聞いた時点でサビの雰囲気はわかることが多いけれど、この曲は出だしからリードギターが激しく主張をするので、このフレーズがサビに来るの? という気分にさせたまま上手いこと2番のイントロまで入っていて曲全体を正当化してしまう。
全体にわたって内田彩のいい音域を使うのでパワフルなバックとも張り合えるし、エレキギターやドラムみたいな強烈にリズムを作る楽器を使えるのでリズム感が出る。テンポが速くて低音が強い、要するにリズムが厳密なオケの上に、内田彩が芯の通った声でアクセントを刻んでいく。非常に合理的だ。
気になる部分があるとすれば2番のBメロの「誰かにとってはガラクタでも そのほうがだ/いじ~」というボーカル的なセオリーでは有り得ない息継ぎをしている箇所だけれど、ステージで喋らせれば綺麗な声が遠くまで飛んで行くし、アニサマが生と比べればかなり直されていることは分かるんだけど、それにしてもよいステージだった。あとこれはファンの人に怒られそうだけれど、内田彩は遠目にも非常に口の動きが目立つので歌っているところを見ていて楽しい。歌手としては大きなアドバンテージだ。
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ある意味では内田彩は相当現在的な声優音楽らしさとアニメソングらしさを両立している。普通声を作ると滑舌が取りづらいし、声がスムーズに抜けていかないので概してアクセントをつけるのが難しくなる。簡単にいえば声優音楽は、CDで上手く整えてメロディーの中に収めたとしても、滑舌やアクセントはちょっと独特で歌にリズムを感じづらい音楽的に平坦な曲が出来上がる危険を常に伴っている。(伴っているというよりは同居していると言った方が近いかもしれない)
内田彩はあまりに明確に滑舌とアクセントを取りながら歌うしそこには軽快さすらあるけれど、それがコントロールされていることは声優音楽としては特筆すべき事だ。技術のある歌手だからといって皆が滑舌を取るとは限らないけれど、少なくともアクセントを取るのはフレージングの基本でそれが出来れば歌は音楽的に成立するような部分がある。そしてアニメソングのような音楽では多くの場合アクセントは滑舌で取りに行くので、必然的に彼女の歌は非常に明快なのだ。
歌えば人の曲も内田彩に変えてしまうような個性的で歌手らしい表現もあるし、音も取るし声にも何か密度がある。今井麻美のような普通に歌の上手い声優はいても、歌手としての歌を持つ声優は少ない。どうやってあの歌に行き着いたのか僕には想像もつかないんだけど、個人的にはそれが彼女の歌を聞いていて一番楽しいところかなと思うし、その不思議さが技術として組み立てられた瞬間からそれは歌手内田彩としての立派な個性になるのだ。
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